街歩き用には硬くて重いトレッキングブーツ。そのディテールを受け継ぎながら、日常に使える、美しい道具としての革靴を目指して製作した”THE HIKE”。
今回はそのサンプル・シューズを1足ずつご紹介していきたいと思います。
様々な素材と製法を使い作られた、街を歩くための登山靴。日々のコーディネイトや、シュチュエーションを想像しながら、ご覧いただければ幸いです。
最後にまとめとして、本作への思いも記しました。少々長いですが、こちらも併せてお読みいただきますと幸いです。
kokochi sun3|THE HIKE|ジオラマ・ネイビー
製法:ステッチダウン
アッパー:ジオラマ・ネイビー
ライニング:ポルティラ・ナチュラル
靴紐:カントリーシューレース・グレー後染め
ソール:シングルレザー・グレー
ラインナップの中では最もソールが薄く、足の返りの良い製法。また同デザインのそれよりも見た目が華奢に見えるので、足元を大きく見せたくない、でもトレッキングシューズを履きたい、という方には最適なシューズなのではないかと思います。
アッパーに使われている素材はジオラマ。兵庫県姫路市。とあるタンナーで見つかった数十年前のヴィンテージ・レザー。そのニベ(裏)部分を採用しました。毛足は長く、その不均一さをお楽しみいただけます。またシューレースはソールのカラーに併せグレーに染色。ネイビー×グレーの潔いカラーリングも本製品の魅力です。
kokochi sun3|THE HIKE|アラスカ・アイボリー
製法:ノルベジェーゼ
アッパー:アラスカ・アイボリー
ライニング:ポルティラ・ナチュラル
靴紐:カントリーシューレース・ボルドー後染め
ソール:ダブルレザー・ダークブラウン
街歩き用なんだから、本気のそれではまず使わない色でとアイボリーを選択しました。また特徴的なのは差し色のボルドー。靴紐、チェーンステッチなど、糸はすべて工房染です。同じ染料で染めた糸は統一感がありますね。革の色との相性もかなり良いです。アッパーのアイボリーの色は、使ううちに時間をかけて、徐々に飴色になっていきます。そのあたりも楽しみながら、たくさん歩いていただきたい。
製法はノルベジェーゼ製法のダブルレザー(2層)。ブランドで作れる一番ボリュームのある製法です。少々重いですが、ソールは歩くたびに足に馴染んできますので、そうなると自分の足のように機能してくれると思います。
色、素材、製法ともに育てがいのある1足となりました。
kokochi sun3|THE HIKE|ヴィテッロフィオーレ・ネイビー
製法:ハンドソーン・ウェルテッド製法
アッパー:ヴィテッロフィオーレ・ネイビー
ライニング:ポルティラ・ネイビー(後染め)
靴紐:ネイビー・後染め
ソール:ダブルレザー・ネイビー
出し糸:ネイビー
試着用シューズを作り出すぎりぎりで見つけた(見つけちゃった)ヴィテッロフィオーレ・ネイビー。見た瞬間、“THE HIKE に使わないといけない!“と思ったほど。艶やかできめが細かく、黒に近いネイビーがとても美しい。そう、美しい登山靴って面白いと思ったんです。そして仕様はソールも紐もライニングもすべてネイビーで染色。染料はこの革のために調色しました。この革をできる限り引き立てさせたかったんです。この思い、画像では到底伝わり切りません。是非、実物をご見にいらしてください。
*ネイビーは限定色の為、なくなり次第生産終了となります。
kokochi sun3|THE HIKE|ジビエイノシシ
製法:ノルウェイジャン製法
アッパー:ジビエイノシシ
ライニング:ポルティラ・ナチュラル
靴紐:カントリーシューレース・ナチュラル
ソール:ダブルレザー・ナチュラル
出し糸:ナチュラル
本品に使用されているのは、害獣として捕獲されたイノシシの革。廃棄するのではなく有効に活用し命を循環させる。兵庫県たつの市にあるタンナー、タツノラボのコンセプトに共感し、ジビエレザーを使わせていただいています。
このジビエイノシシ。とにかく“皮”の状態に近くなるよう、最低限の加工しかしていません。使用したのは水、油、植物タンニンのみ。カサっとした表皮は水分も油分もいろんなものを吸い込みますが、それが目的だったりします。使う人は皆それぞれで、様々な環境で個の靴を履く。それを顕著に表現してくれるのがこのジビエレザー。雨風に多く当たった人と、オイルアップを定期的にする人。また屋内外での使用頻度によっても育ち方が違ってきます。誰ともかぶらない、自分だけの1足を育てること。想像するとなんだかとてもワクワクします。野生の傷が残る無二のマテリアルを育てていってほしいです。
最後に
5年ぶりに復刻した “THE HIKE”。約1年前に構想に入り、半年前からパターンの変更を開始。そしていざ試着用シューズの製作の段階で、ヴィテッロフィオーレ・ネイビーとジビエ・イノシシに出会いました。この2つのマテリアルを使った時の出来上がりを想像し、あまりにも明確で、そして美しかったので、締め切りギリギリであるにもかかわらず、即仕様変更を決めました。そこから本企画は大きく舵を切りなおすことになります。
今までの計画は何だったのか。半ば笑うしかない切羽詰まった状況で何とか、何とか、締め切りぎりぎりで完成に至りました。普通なら「次の企画でこの革を生かそう」となるのですが、何故かその考えは1ミリも浮かばなかった。締め切りに間に合わないかもしれない。そうすれば靴のない展示会になります。そんなことは到底ありえないんです。それでも、リスクを取ってでもこの革で“THE HIKE”をやりたい。そう思ったんです。
と、無条件にそう言わしめたヴィテッロフィオーレ・ネイビー、そしてジビエイノシシの力に感謝です。だってそのおかげで、とても素晴らしい作品となったのですから。そして今度は私が革から授かっと“モノ”の力を、皆さんに繋ぐ番です。是非、足を通しにいらしてください。お待ちしております。